おしゃれ用と医療用それぞれのウィッグは共に頭部の脱毛や薄毛を隠して美容を向上させることを目的として作られており、表記を制限する明確な区分けはありません。
また医療用とされているウィッグであっても脱毛や薄毛を改善させる効果はなく、ウィッグをおしゃれ用か医療用として売り出すかは各メーカーの裁量次第となります。
おしゃれ用と医療用で、明確な違いがないかに思われるウィッグですが、一つの指標としてJIS規格に則っているか否かで区分け可能です。今回は、市販されているおしゃれ用ウィッグと医療用ウィッグの違いを解説します。
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市販の女性向けおしゃれ用ウィッグはデザイン重視タイプ
市販されている医療用以外のウィッグは総じておしゃれ用ウィッグであり、機能性よりもデザイン性に重きを置いて作られているものが多いです。主にヘアスタイルのイメチェンといったファッション用途で使われており、医療用のウィッグと比べてリーズナブルなものが多く目立ちます。
パーティーやイベントなどのコスプレで使われるウィッグはおしゃれ用のものがほとんどであり、つむじがない作りのウィッグもほとんどがおしゃれ用です。
おしゃれ用ウィッグは安価ながらデザインが多様であるため、いつもと違うヘアカラー、スタイルに加えてヘアタペストリーを気軽に愉しむこともできます。そのため若い女性層からすると、医療用よりも馴染み深いウィッグといえるでしょう。
「おしゃれ用」と「医療用」は毛の材質による分類ではない
上記のようにウィッグで使われている毛の材質は「人毛」「人工毛」「ミックス」の3種類があります。おしゃれ用と医療用それぞれのウィッグは毛の材質によって分類されるものではないため、例えばおしゃれ用なら人工毛のウィッグしか選べないということはありません。
人毛のウィッグはスタイリングが崩れやすいが自然な見た目と質感
人毛ウィッグは本物の頭髪を使って作られており、他の材質で作られたウィッグと比べて見た目と質感がナチュラルです。しかしスタイリングが崩れやすいため、ヘアアレンジを楽しみたいという場合は不向きかもしれません。
普段使っているシャンプーやトリートメントが使用可能であり、自分の髪と同様に扱えます。国内で売られている人毛ウィッグは、日本人の髪質にあわせて中国やインドといったアジア産が主流です。
人工毛のウィッグは特有のツヤが目立つがスタイリングは崩れにくい
人工毛ウィッグはポリエステルやアクリルといった化学繊維で作られており、中には特有のツヤが不自然にみえる製品もあります。しかしポリエステルを筆頭とするファイバーは形状記憶に長けているため、人毛ウィッグと比べてスタイリングが崩れにくいです。
安価なおしゃれ用ウィッグの多くが人工毛を使っており、速乾性に優れているためお手入れが苦ではありません。製品によって異なりますが、洗う際は専用のシャンプーを使うことがあります。
ミックスのウィッグは人毛と人工毛それぞれの特徴を併せ持つ
ミックスウィッグは人毛と人工毛のそれぞれを材質に使って作られており、毛の材質割合は製品によって異なります。人毛100%のウィッグよりもスタイリングが崩れにくく、完全人工毛のウィッグと比べてナチュラルな仕上がりです。
ハイブリッドなウィッグといえますが、人工毛の割合が多い場合はパーマやカラーリングなどに向いていません。普段使いのシャンプーによる洗髪が可能なものもありますが、一部製品は専用の洗髪剤によるお手入れが必要です。
おしゃれ用ウィッグは自毛の上から装用することを想定した作り
おしゃれ用ウィッグの多くは自毛の上から装用することを想定した作りです。そのため品質の低いおしゃれ用ウィッグを頭皮の上から直接装用していると、皮膚が荒れるといったトラブルを引き起こすリスクがあります。
医療用ウィッグの多くは頭皮に直接触れる可能性の高いネットやスキンベースといったパーツに低刺激な素材を使って作られていますが、おしゃれ用ウィッグはこの限りではありません。またサイズやフィット感を調整できないウィッグもあり、人工頭皮が付いているものとそうでないものがあります。
ウィッグの人工頭皮は頭頂部をより自然に見せるパーツ
人工頭皮が付いているウィッグは頭頂部を上から見たときの印象を左右するパーツであり、精巧に作られたものであると本物との区別がつかないこともあります。
お辞儀をしたときや着席しているときなど、頭頂部を人から見られたときにウィッグだと判断されたくない場合は人工頭皮付きを選びましょう。
ウィッグの人工頭皮に使われている素材は大別するとシルク、シリコン、ウレタン樹脂の3種類です。通気性に長けて蒸れにくい素材はシルクの人工頭皮であり、通気性が悪いと汗で蒸れて頭皮に痒みや湿疹が発生することもあります。
シリコンやウレタン樹脂の人工頭皮は長時間装用した際の通気性に難がある一方で、職人の手によって毛が一本ずつ植えられているものは近くで見ても本物に引けを取らない精巧な仕上がりです。頭頂部から髪の流れが自然な放物線状に広がっているため、ひと目でウィッグだと気づく人は少ないでしょう。
おしゃれ用ウィッグで人工頭皮が付いているタイプの場合、その多くが機械によって作られているため頭頂部に不自然な印象をうけることがあります。しかし高価であるほど自然な仕上がりとなっている傾向が強く、セミオーダーやフルオーダーとなれば通気性も両立可能です。
医療用ウィッグは各検査をクリアしてJIS規格に適合したもの
おしゃれ用ウィッグはデザイン重視であるのに対して、医療用ウィッグは基本的に装用時の各検査をクリアしてJIS規格に適合したものを指します。検査は主に装用した際の皮膚に対する安全性や機能性を確かめるという内容です。
おしゃれ用と医療用それぞれのウィッグは、薄毛または脱毛を隠す目的で頭部に装用するものという点は共通しています。しかし2015年4月20日に経済産業省が医療用ウィッグに関するJISを制定したため、この規格に則っているウィッグであれば定義として医療用と表記あるいは呼称するのが一般的です。
JIS適合の医療用ウィッグは頭皮に直接装用することが想定された作り
医療用ウィッグそのものに育毛効果は認められませんが、抗がん剤の副作用や放射線治療といったなんらかの要因で頭髪が抜けてしまった人向けに作られています。そのため毛髪が完全に抜け落ちている頭皮の上から装用することを想定して作られており、おしゃれ用ウィッグと比べてデリケートな作りです。
先述したとおりJIS規格に適合したウィッグが医療用であり、経済産業省の官報によると以下4つの要項が主な規定内容として示されています。[注1]
- 1.閉塞法皮膚貼付試験(クローズドパッチテスト)
- 2.遊離ホルムアルデヒド試験(ホルマリン試験)
- 3.洗濯堅ろう度試験
- 4.汗堅ろう度試験
製品の使用によって皮膚炎症が起きた際、その原因がアレルギー性か刺激性による反応であるかを検査するもの。
湿疹やかぶれといった皮膚の炎症を引き起こすとされているホルムアルデヒドという物質を製品が含有していないか検査するもの。
製品を洗濯した際の変退色と他の洗濯物への色移りを検査するもの。
製品を装用したまま汗をかいた際の変退色と色移りを検査するもの。
上記の検査を終えて性能基準が確かめられた医療用ウィッグのみが、「Med・ウィッグマーク」というJIS製品規格適合マークを使用可能になります。2018年9月現在、ウィッグを医療用と表記することを制限する法的な枠組みはありません。
そのためJISに適合していないウィッグでも、医療用と謳いながら売り出すことは事実上可能です。品質が確かめられた医療用ウィッグを選びたい場合は「Med・ウィッグマーク」の有無をチェックすることで是非を判断できるため、消費者にとってウィッグ選びにおける一つの指標といえるでしょう。
[注1]経済産業省:医療用ウィッグに関するJISを制定[pdf]
医療用ウィッグの多くはズレにくい安定構造
ウィッグの着用時に多い不安は「ズレないか」という点ですが、医療用ウィッグは着用時のズレ防止としてサイズ調整がしやすい安定構造なものが多く目立ちます。ほとんどの医療用ウィッグは見た目もさることながら、機能性を重視して作られている傾向が強いです。
ネット部に伸縮性のある素材を使っているものや複数のサイズから自分に最適なサイズを選択できるタイプもあるため、着用時にズレにくいといえるでしょう。ただし、人それぞれ顔立ちが異なるように頭の形も千差万別であるため、既成品のウィッグだと最適なフィット感が得られないことがあります。
頭の形とウィッグがフィットしていないとズレやすいため、既成品を買う際は必ず試着して着用感を確かめましょう。またウィッグをオーダーメイドすれば高い着用感が得られ、インナーキャップを被った上からウィッグを重ねて着用すれば高いズレ防止効果が期待できます。
医療用ウィッグは基本的に医療費控除の対象外
医療用ウィッグは文字通り“医療用”という表記がなされているため、医療器具に該当すると考える人が多いかもしれません。しかし2018年9月現在は、医師の診断書がある場合など特例を除き医療費控除の対象外とされています。
医療用ウィッグは抗がん剤の副作用などによる頭部の脱毛を隠すために必要不可欠ですが、高価なものが多く目立ちます。セミオーダーやフルオーダーとなればさらに負担額が大きくなってしまいますが、ウィッグは医療用と称されていても基本的に医療費控除の制度が利用できません。
医療費控除は1年間で支払った診察費や入院費といった医療費が一定額以上となった場合に適用される制度であり、支払った医療費の一部が還元される制度です。薬事法の定義にあてはまる医療器具も控除の対象ですが、ウィッグは医療器具に該当せず美容目的に利用されるものと判断されています。
医者の診断書があれば控除の対象として認められる可能性はありますが、あくまで可能性の範疇であるため過信は禁物です。今後薬事法が改正され、ウィッグが医療器具として認められれば医療費控除の制度が利用できるかもしれません。また自治体によっては独自の補助金制度が用意されていることもあります。
装用するときの頭髪ボリュームと目的がウィッグ選びのポイント
ウィッグを選ぶときは頭髪のボリュームと目的を明文化することが重要です。例えば、頭髪が十分にあって「いつもと違う髪型になりたい」といったファッション感覚でウィッグを求めている場合はおしゃれ用が適しています。
対して病の治療による副作用や外傷などによる脱毛で頭皮に直接装用するというケースであれば、JIS規格に適合した医療用のウィッグを選ぶべきです。おしゃれ用も医療用も頭部の脱毛を治癒する効果はありませんが、ウィッグは装用する人の精神的な苦痛を和らげ日常生活の質を高める目的で作られています。
昨今のウィッグは技術の発展によって精巧に作られ、従来よりもナチュラルな仕上がりとなっているものが多くあります。またJISの制定によって粗悪品が世間に出回るリスクが抑えられつつあるため、実際に試着して装用感を確かめた上で購入するかどうか検討してみてはいかがでしょうか。
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